こころぼそい貯金通帳を眺めたり、自分と世界との間に暗く厚く横たわる解き明かせない謎に想いをはせたりすると、いまの自分が誤った人生を送っているかのような感覚にさいなまれる。そんなとき、わびしくてやるせない現状から目をそむけ、過去を振り返ってあのときこうしていればと考えてしまう。しかし、どんなに悔やんでも、過去に戻ってやり直すことなど出来ないのだ。現在の技術力では、過去に干渉することは不可能だ。たとえタイムマシンを持っていて過去に旅することが出来たとしても、そこにいる過去の自分の行動を変更させることに成功するとは限らない。また、たとえ過去の自分の行動が変化したとしても、その時空は今の自分の時空につながらない、新しい時の流れをたどり始めたにすぎないのだ。今ここにいる自分を変えることが出来る力は、現在の意志による現在と未来への干渉能力にしかないということだ。