❄雪女と傘地蔵
むかしむかし、雪深い山あいの村のはずれに、六体のお地蔵さまが立っていました。正月が近づくある日のこと、空の上から雪女が村を見下ろしながら言いました。
「ふふ、今日は村びとにたっぷり雪をふらせて、だれも外に出られないようにしてしまおう。」
そこへ、六体のお地蔵さまの中でも一番年長の地蔵が、ふわりと魂だけ抜け出して空へ上り、雪女の前に現れました。
「雪女どの、たいそう張り切っておるようじゃが、ひとつ勝負せぬか。」
「勝負? 面白い。何を競うのだい?」
「村びとの心をひらかせるのがうまいのは、どちらか。そなたの雪か、わしらの慈しみか。」
雪女は胸を張って笑いました。
「そんなもの、わたしに決まっている。寒さで人間なんてすぐに動けなくなるさ。」
❄雪女の番
雪女が腕を広げると、猛烈な吹雪が村へ舞いおりました。家の戸はみな閉じられ、人びとはこたつに丸くなり、外に出ようとする者は一人もいません。
雪女は満足げに言いました。
「ほらね。わたしの冷気には、人の心も体も凍ってしまうのさ。」
しかしその時、村の外れの小屋から一人の老人がよろよろと出てきました。
雪に埋もれた道を歩きながら、肩をふるわせています。
雪女は少し意外そうに言いました。
「まだあきらめない者がいるのかい?」
しかし老人は寒さに震え、とうとう途中で倒れこんでしまいました。
☀傘地蔵の番
すると、六体のお地蔵さまがふわりと動き出し、倒れた老人のそばに寄り添いました。
「さあ、わしらの番じゃ。」
お地蔵さまは地面から藁でできた傘と笠を取り出すと、倒れた老人にそっとかぶせ、手を合わせました。
その瞬間、老人の体をほんのりとしたぬくもりが包みました。
雪は相変わらず激しいのに、傘と笠の下だけは春の日差しのように温かいのです。
老人はゆっくりと立ち上がり、再び歩き出しました。
今度はしっかりとした足取りで、お地蔵さまに向かって頭を下げます。
雪女は驚いて言いました。
「どうしてだい? わたしの冷気の方が強いはずなのに。」
年長のお地蔵さまは微笑んで答えました。
「雪女どの。そなたの力は、人を止める力じゃ。
だが、わしらの慈しみは――人を進ませる力なのじゃよ。」
雪女は自分の吹雪がどれほど強くても、人の心を温める力を持たないことに気づき、少し寂しそうに空を見上げました。
☀終わりに
その日の夜、吹雪は静まり、空には満月が輝きました。
雪女はそっと村を離れながら言いました。
「ふふ、負けたよ、お地蔵さま。
でも、たまにはあんたたちと手を組んでもいいかもしれないね。」
そして翌朝、老人の家の前には、雪女の落としていった小さな氷の花と、お地蔵さまがそっと置いた新しい笠が並んでいたということです。